「体幹を使う」のは、動く直前
前項で、動作中は複数の筋肉が一緒に活動することを説明しました。
しかし、細かくは「同時」ではなく、「適切な順番」があります。
特に体幹の筋肉は、腕や脚が動く「直前」に活動するのが適切と言われています。
逆を言うと、腕や脚は体幹の筋肉が活動して、初めて効率良く動かすことができます。
この「体幹の筋肉を直前に活動させる」ためには、いくつかのテクニックがあります。
①コアエンゲージメント(Core Engagement)
②リロード(Re-load)
①コアエンゲージメントは、チューブを引いたり、物を押したりすることで無意識に体幹の筋肉を活動させる方法です。
②リロードは、ウエイトトレーニングを行う際に、あえて毎回重りを手から離し、握り直すことで体幹の筋肉を無意識に活動させる方法です。
具体的には、デッドリフト中に毎回重りを床に置き、握り直します。
(「握る」という行為が、脳に「何か重いものを持つな」と錯覚させ、肩周りや体幹の筋肉に無意識に活動を起こさせる、というメカニズムを利用したものです)
逆に、体幹の筋肉が活動していない中で下半身を強く使おうとすると、腰が反ったり丸まったり、スタビリティ関節である腰椎が動かされてしまい、怪我に繋がります。
巷に「体幹」という言葉は本当に広まりましたが、
このように正しく使うこと、その理由も理解しておくことが重要ですね。
Coach Y
筋トレが動きに繋がらないもう一つの理由
ここまでで、筋肉が単に太く強くなるだけでは、動きやすい体に繋がらないこと理由を解説してきました。
もう一つ、考慮すべきことがあります。
それは「人間の動きは、一つの筋肉のみで起こすことができない」のです。
前述の通り、筋肉は関節をまたいで付いており、筋肉を縮めると関節が動きます。
ただし人間が動くときには、全身の多くの筋肉が同時に(あるいは適切な順序で)働いています。
これをNASMはForce Couple(フォースカップル)と表現しています。
上の図は、フィットネスジムによく置いてあるラットプルマシンをする様子です。
上に吊るされた棒を引き下げるトレーニングですが、大体のマシンには「『広背筋』を使うマシンです」と書いてあります。
しかし、実際には広背筋以外にこれだけの筋肉が、肘を下に引く動きに関わっています。
あるいは上の図は、野球の投球の場面です。
股関節や体幹を捻る動きはピッチングに関わらずバッティングやゴルフスイング、格闘技のパンチなど多くのスポーツで見られます。
その際に働く筋肉の組み合わせは、腹斜筋という腹筋の一部と、内モモにある内転筋です。
このような組み合わせは適当ではなく、既に研究によって明らかになっています。
ここまで話すと、一つひとつの筋肉を単体で鍛えることが、どれだけ動きやすい体づくりに非効率であるかが分かりますね。
有名な話です。
ボート選手へのトレーニング指導で、「オールを引く動きを鍛えれば競技成績が上がる」と思い、ケーブルを引くトレーニングを沢山指導しました。
その際、「広背筋を意識して引いて!」と指導し続けていたら、いざボートの練習をした際に「いつもより広背筋を使いすぎてしまった」とタイムが落ちてしまった、という話です。
上記と同じですね、多くの筋肉がバランスよく働くのが理想的なのに、過度に大きな筋肉だけを使おうとする動き方を、その選手は身に付けてしまったということです。
筋肉が使われる「適切なタイミング」に関しても、事項で再度まとめます。
松野
『バネ』とは何か
「あの選手はバネがあるな〜」
と言うコメントを聞いたことはありませんか?
素人目にも分かるくらい、伸びのある動きをするアスリートは大勢います。
では彼らは、通常の人と比べて何が長けているのでしょうか?
ここでは、筋肉に存在する「センサー」が重要になります。
その一つは、以前に解説をした「筋紡錘」です。
(↑上の図は、アメリカのトレーナー向け資格発行団体NASMがリリースしているものです)
筋紡錘は、いわば筋肉の中に存在する「守衛さん」です。
それぞれの筋肉の繊維が伸びすぎてちぎれないように守るのが仕事です。
なので筋肉が急に伸ばされると「ちょっと待てー!」と筋肉を縮めて止めるわけです。
伸ばされると、筋紡錘が筋肉を縮める。
この作用を利用して、より強く筋肉を縮める力を得るのが「バネ」と呼ばれる作用を引き出しているのです。(「伸張反射」などとも呼ばれます)
では、この作用を強くするには、どうすれば良いのか。
具体的には、以下のような方法があります。
・ダイナミックストレッチ
・プライオメトリックトレーニング
いずれも速い動作や反動を伴います。
では、一般的なフィットネスクラブではどうでしょう?
ストレッチは、ビデオを見ながらゆっくりと行い、マシンを使い際には「危険なので、ゆっくり動かしましょう」と説明を受けます。
これは安全面を考えば仕方のないことですが、より動きやすい体を作るためには、上記のような速い動作を段階的に習得していく必要があるのです。
では、安全にこれらの反動を用いたトレーニングをすべきか。
この辺りに着目して行きます。
Coach Y
筋肉がつけば、高く跳び、速く走ることができるのか
基礎知識もほどほどに、中核に入って行きます。
スポーツで高いパフォーマンスを発揮するために、多くのアスリートがトレーニングに励んでいます。
では、筋肉さえ付けば、より動きやすい体が手に入るのでしょうか?
答えはNoです。
これまで解説してきた通り、筋肉の太さは筋力に比例するので、より強い力を出すことができるようになります。
しかし、それが「動きやすくなる」のとは別物なのです。
上の図は、米国の理学療法士であるGray Cookが提唱したパフォーマンスピラミッドと呼ばれるものです。
スポーツのスキルを向上させるためには筋力を含む「Performance」が必要となりますが、その前に正しい動作を習得する「Movement」の要素が必要ということです。
「Movement」とは、簡単に言うとモビリティとスタビリティのことです。
『それぞれの関節が、それぞれ必要な分だけ動き、必要な分だけ安定できること』です。(これに関しては、既に解説したので割愛します)
次項では、よりスムーズに動くために必要となる「バネ」のメカニズムを分かりやすく解説して行きます。
Coach Y
そうだね、筋肉だね③筋肥大のメカニズム
それでは改めて、筋肉が太くなるメカニズムに関して、解説して行きます。
①微細な筋繊維の損傷
②強い筋発揮を経験させる
③筋肉内の環境を悪化させる
①は、今や筋肥大のメカニズムで一番有名ではないでしょうか?
トレーニング等で筋繊維が小さく損傷すると、体は「次に同じストレスが掛かった時に耐えられるよう、今よりも強くしておかなければ」と、元の強度よりも強い組織を作ろうとします。これが超回復とよばれるものです。
これを狙って、トレーニングの際に筋肉が伸ばされながら使われる局面(伸張性、あるいはエキセントリックなどと呼ばれます。スクワットなら下がっていく時間のことです)をゆっくりじっくり行い、筋損傷を狙うという方法が一般的になりました。
ですが、エキセントリックな局面がなくても筋肥大は十分に起こり得ます。
例えば自転車競技。自転車競技はランニングと違ってエキセントリックに筋肉が活動する瞬間がありません。水泳も同じです。
しかし双方の競技者は相当な筋肉を持っていますよね。そこで大切になるのが②と③です。
筋肉に強い力が加わったり、筋肉内に疲労物質が溜まると、上記と同じように「より強くなって同じストレスに耐えられるようにしておかなければ」と筋肥大を起こすと言われています。
なので、単純に重い重りを持つだけでも十分に筋肥大は行われるのです。
ちなみに、一時期ブームとなったスロトレは、長時間筋肉を使い続けることで筋肉内に疲労物質を溜め込むことが目的なのだと思います。
加圧トレーニングも同類かと思います。それにより成長ホルモンなどの分泌を促すというメカニズムを利用しています。
Coach Y
そうだね、筋肉だね②筋肥大と筋力
さて筋肉の働きに話を戻します。
筋肉の機能はズバリ「縮む」ことです。
筋肉は、脳から神経を通して送られる司令を受けて、縮みます。
筋肉が縮む力のことを「筋力」と言います。
筋力の強さを決める要因は、以下の3つがあります。
①筋肉に送られる神経司令の頻度(発火頻度)
②一回の神経司令に対して、反応する筋繊維の数(運動単位)
③筋肉の太さ(横断面積)
①に関しては、筋肉自体ではなく、神経との関わりが強いため、
別の項にてまとめます。
②に関しても、筋肉によって違いはありますが、基本的には後天的に
変わるものではありません。
③に関して話すと、単純に「筋肉は太いほうが強い」です。
筋肥大は筋繊維が増えることではなく、一本一本の繊維が太くなって行きます。
筋肉が太くなるメカニズムに関して、解説して行きます。
・微細な筋繊維の損傷
・強い筋発揮を経験させる
・筋肉内の環境を悪化させる
詳しくは次回にまとめます。
Coach Y
そうだね、筋肉だね①筋肉の構造
さてここからは、筋肉について一つずつまとめていきます。
これは自論でもありますが、筋肉を学ぶ際に、名前や付着部を一つひとつ覚えていくのは果てしなく大変です。
人の体には多くの筋肉があり、トレーナーを志す人も多くはここで挫折します。
なのでこのブログでは、本題である「動きやすく、痛めにくいカラダ作り」に関わりの強い部分を優先的に取り上げ、筋肉を学ぶことの楽しさを重視してまとめて行きます。
まず筋肉の構造です。
普段から肉を食べる我々は、筋肉と言われると骨付きカルビ的イメージをするかもしれませんが、実は筋肉は細いピアノ線のような繊維(筋繊維)の集合体です。
それらが腱という硬い繊維になり、そのまま骨にくっつくというわけです。
この細い筋繊維は、比較的切れやすく、相当数ある筋繊維のうちの数本が切れた状態が筋肉痛と考えるとイメージがしやすいですね。
(筋肉痛には、上記のメカニズムとは別に、筋肉内の循環不良で起こることもありますが、こちらは後述します)
筋肉痛もれっきとした怪我である、というのがお分かりいただけるかと思います。
そして、この切れた繊維が多ければ、怪我の名前に変わるというわけです(筋断裂など)
Coach Y